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新彊野宴(シンチャンバンケット)
新彊野宴会(シンチャンバンケット)

 【イギリス人】 その7

 翌朝、池上君と僕はアリス先生が誘ってくれたツアーに参加することにした。参加者はクチャ賓館の玄関に集合し、車が到着するのを待った。眼鏡をかけた赤毛の女性はベルギー人で、西安の大学に留学しているとのことだった。つばの広い青い帽子をかぶって、玄関先の低いいけ囲いの上に腰をかけ、静かに本を読んで待っている。スイスの二青年はどちらも背が高く、一人は金髪の巻き毛で、もう一人は茶色のストレートヘアー。玄関先で立ったまま楽しそうにお喋りだ。二人とも上海の同じ大学に留学していると言っていた。池上君と僕は暑さを避けて、ロビーの長椅子に寝そべるようにして座っている。

「スイスの彼ら、朝から元気あるなあ。僕、まだ寝足りへんのに・・・」

 池上君はかぶっていた帽子のつばをグイッと下に引っ張って視界を遮った。僕も眠い。僕らは夕べ2時過ぎ頃までビールを飲みながら喋くっていたのだから。

 そして、メアリー先生はスイスの留学生達から少し離れた場所で腕組みをして立っていた。水色のスカーフの結び目を時折気にし首の後ろに手を回したりしていたが、それ以外はしっかりと腕を組み、口を真一文字に結び、右足のつま先を神経質に上下させていた。彼女の眉間には縦に皺がよっていて、かなり険しい顔つきだ。メアリー先生が不機嫌になるのも仕方ない。出発の時間がとうに過ぎてもツアーの車が来ないのだから。

「どうなっているのかしら。11時に出発って言ってたのに、もう45分以上過ぎているわよ。」

 独り言にしては大きな声だった。

「もしかして新彊時間の11時ってことじゃないの?」

 金髪巻き毛の方のスイス人が言った。

「いいえ、北京時間の11時だって、きのうちゃんと確認したわ。」

 メアリー先生は苛立ちを隠せぬかのように眉をヒクヒク動かした。右足のつま先が上下するスピードがグッと速くなり、我慢しかねている様子がよくわかった。

「ここではこういう事、よくあるわよ。ま、仕方ないわ。根気よく待ちましょう。」

 ベルギーの女の子が本から顔を上げて穏やかに言った。

「まったく、この国の連中と来たら時間にルーズなんだから!」

 メアリー先生は目の下をポリポリ掻いた。
 我々はまた静かに車の到着を待った。だが、30分経ち、1時間が経っても誰も来る気配はなかった。

「あー、もういいわ!これ以上待っても無駄なんじゃない?担当者に言ってツアー代返してもらいましょう!!」

 堪忍袋の緒が切れたのか、メアリー先生は鋭く喚いた。

「もう少しだけ待ってみようよ。ここまで待ったんだから。」

 ストレートヘアーの方のスイス人が彼女をなだめた。

「だってイライラするじゃないの!約束違反も甚だしいわ。見てよ、時間!今何時よ!もうじき1時よ!2時間も私達損をして・・・」

 と、突然ジープ2台がすごい勢いでこちらに向かってきた。やっと来やがったか!どっこらしょっとかけ声をかけて、僕はソファーから立ち上がった。池上君もやおら立ち上がり、

「眠ぅ~。」

と、猫のように伸びをした。が、のんびりした僕らをせかすように、メアリー先生が僕らの背中をどやしつけた。

「ほーら、はやく乗って!」


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