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新彊野宴(シンチャンバンケット)
新彊野宴(シンチャンバンケット)

 【イギリス人】 その6

 トーマスの冒険譚は大いに僕らを刺激した。危険すれすれのスリル感が男のロマンを感じさせる。真似をするのはなかなか難しいが、話を聞いているだけで、こちらも旅の血が騒いでくる。それにしても一見ヤサ男のトーマスが、シビアな体験をくぐり抜けてここでにこにこ笑っているのが不思議だった。

「僕はこれからトルファン、ウルムチ、カシュガルと行って、パキスタンに抜けるよ。」 
 トーマスは長い足を組み替えた。

「それからヨーロッパを横断して、ドーバー渡って、国に帰るんやろ?」

 池上君も足を組み替えた。が、その動作はどうもトーマスのそれよりスマートさに欠けていた。やはり足の長さが違うからだろうか。

「ヨーロッパは楽勝だろうけど、その手前のイスラム圏がまたエキサイティングだろうな。」

 トーマスは今後の旅に思いを馳せ、ごろんとベッドに寝ころんだ。

「髭、伸ばしてパキスタンに入ってくださいよ。」

 僕が笑いながら忠告すると、トーマスはその意味を理解しているようで、わかってるよと言いながら、顎のあたりをさすった。

「あー。やめて!カシュガルでの忌まわしい思い出がよみがえる~!」

 池上君は足をばたつかせて悶え、僕とトーマスは大いに笑った。

 
 翌日トーマスは西へ、池上君と僕は東に向かった。次に僕らが行き先に選んだのはクチャだった。新彊の中ほどにあるオアシスの町クチャには多くの名所旧跡があり、これらを池上君とともに回ることにしたのだ。僕らは庫車賓館のドミトリーにチェックインし、バス移動の疲れをとるためベッドに寝ころんだ。池上君と僕は、暑さで陽炎のように揺らめく中庭の草木を窓越しに眺めながらまどろみ、いつしか深い眠りに落ちていた。

 小一時間ほど眠っただろうか、ふいにカチンという物音で目が覚めた。がばっと飛び起きると、傍らに欧米系の女性がびっくりしたように僕を見た。

「オォ、ソーリー。起こしちゃったようね。」

 彼女は決まり悪そうな顔をしてしゃがんだ。うっかり落っことしたホーローのマグカップを拾い、また

「ごめんなさいね。」

と囁いた。いえいえ、と言いつつベッドからもぞもぞ這い出てから、僕は時計を見た。昼の12時だった。大きな欠伸を一つして横を見ると、池上君はまだぐっすり眠っていた。

「今日、入ってきたのね。」

 さっきの女性が話しかけた。

「はい、午前10時頃チェックインしました。よろしく。」

 僕は名を名乗り、簡単に自己紹介した。

「日本の男の子は礼儀正しくてキュートね。私はメアリー。イギリス人よ。」

 またしてもイギリス人に出会うとは。二度あることは三度あるんだな、やっぱり。
「バケーションですか?」
「ええ、そう。夏休みになったからね、解放されたわ。」

 メアリーは自分のポーチから名刺を取りだし、はい、と差し出した。その名刺には英語で彼女の名前が印刷されていたが、その下に‘瑪莉’と印字してあった。肩書きには武漢大学英語講師、とあった。

「大学で英語を教えているんですか!?」
「そうなの。試験が終わったから、即出てきたわ。」

 メアリー先生は少し白髪の混じったストレートヘアーを揺らしておどけた。

「先生も大変でしょうねえ。」
「まあね。だけど面白いわよ。なんたって中国だからね。あ、そうそう、実はね、明日クチャ周辺の遺跡巡りツアーを予定してるんだけど、あなたも参加しない?今のところそこのベッドのベルギーの女の子と、隣の部屋にいるスイスの学生二人と、私が行くことになってるんだけどね。人数が多ければ割安になるし、どうかしら?」


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