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アジアぶらぶら顛末記
アジアぶらぶら顛末記 パキスタン編

その4 【ギルギットのお宅に闖入】

「ハロー、アッサラームアレイクム!」

ぎこちない挨拶をして少年宅を訪れた私だが、玄関口に立つやいなや奥から子ども達がうじゃうじゃ出てきた。彼らは私を見ると“キャー!”と歓声を上げた。そして、どうぞどうぞ、中へお入んなさいというジェスチャーをした。それで靴を脱ごうとしたら、今度は“NO,NO!”と声が上がった。びっくりして顔を上げると羊飼いの少年が

「靴は脱がなくてもいいですよ。」

と言うので言われるまま土足で部屋に上がり込んだ。部屋の中にいる子達はみんな裸足なのに、本当にいいのかなあ。

玄関からはすぐ応接間になっていて、長椅子のソファーとテーブルが美しい絨毯の上に配置されている。ソファーに腰掛けるように促されたが、いくらなんでもこんな綺麗な絨毯の上を靴のままで踏むのはためらわれた。それで靴を脱ごうとしたのだが、また“NO,NO!”と皆が大声を出した。靴を脱がなくてもよいと言うのだ。

しかし、ここで私はふと思い出した。中国の少数民族ウイグル族もイスラム教徒であるが、彼らが客人をうちに招き入れるときは客人に敬意を表し、土足でうちに入ることを勧めるという。だが、ウイグルのうちでは本当は土足はタブーだ。そのことをお客も察し、『靴を履いたままお入りください』と言われても、『いえいえ』と答えて靴を脱がなくちゃならないそうだ。これは京都の挨拶『ぶぶ漬けでもどうですえ?』と主人に言われたお客が『いや、ぼちぼち帰りますわ』と答えなければならないのに似ている。客に対する主人の本音と立て前を見抜かなくてはならないのが、ウイグルと京都共通の鉄則だと、シルクロードを訪れたときに感じたのだった。

さて、ウイグルもパキスタンの人も同じイスラム教徒だ。行儀作法もやはり同じかもしれない。ここでしくじったら『いやぁ~、わかってへんお客さんどすなぁ~』と、後から陰口をたたかれるやもしれぬ。そうなったら恥ずかしいので、靴を脱ぐことにした。

珍客を一目見ようと、奥の部屋からまた子ども達がぞろぞろ出て来た。その様子におったまげていると、羊飼いの少年が嬉しげに言った。

「ぼくはアブダビドゥル。それからこちらはお姉さん。」
アブダビドゥル君と握手し、さっき門から顔を覗かせていた可愛らしいお姉さんとも握手をした。中学生かというそのお姉さんは少しはにかみながら、小首をかしげて微笑んだ。今までパキジャン達としかお話したことがなかったが、やっとパキスタンの女性をこうやって間近で見られたわ。パキスタンの女の子は目がぱっちり、鼻筋がすうっと通っていて、美人だ。彫りが深いっていいなあ~。すっかりアブダビドゥル君のお姉さんに見とれていたら、いつの間にか私の前に子ども達の列ができていた。

「順番に紹介するね。えーっと・・・」

子どもを並ばせながらアブダビドゥル君が言う。

「この子はすぐ下の弟。次が二つ下の妹で、その次が5番目のお姉さん。あ、さっきのお姉さんの3歳上なんだ。そして次が三つ下の弟で、次が従弟の・・・・・」

私は並んでいる子ども達と順々に握手していったが、この作業はちょっとやそっとでは終わりそうになかった。いったいどこにこれだけいたのかと思うほど子どもが現れたのだ。湧いて出て来たような感じだ。まるで幼稚園だな。三つくらいクラスができそうだ。

「・・・次がすぐ上の兄で、次が従妹で・・・・」

も、もういいよ、アブダビドゥル君。紹介してもらってもこんな大人数じゃ覚えられないじゃ~ん。結局記憶に残ったのは、さっき門のところにいたお姉さんくらいだった。

子ども達との握手がやっと終わったら、アブダビドゥル君は部屋の隅に座っている女性を指さした。

「僕のお母さんだよ。」

お母さんは白髪が混じった長い髪をベージュのベールで覆い、微笑みをたたえたしじまの中に座していた。アブダビドゥル君のお母さんとも握手をしたが、その手はいい具合に皺が刻まれていて、手のひらの肉は厚ぼったかった。まさに母の手だ。それでいて女性らしさの滲み出た優しい手だ。彼女の笑みや挨拶するときの表情はとても上品で、大阪のおばちゃんのそれとは天と地ほどの差があった。

 お母さんの品の良さに感動していると、誰かが奥の部屋から出て来て立ち止まった。振り返ってその人を見、思わずはっと息を呑んだ。もの凄い美人が赤ちゃんを抱いて立っているではないか。その美人はすらっと背が高く、鮮やかな大きな瞳で、バランスの良い高い鼻、きゅっと口角の上がった口元、ブルーのカミースに身を包み、子を抱いて凛と立っている。彼女の姿はこの世のものではない感じがした。天女かマリア様か。あ、イスラム圏だからマリア様というのはいけないのかな。とにかくラファエロが描いたような壁画から抜け出てきたみたいだっだ。そしてその美貌は映画女優に劣らぬ華やかさがあった。しばし美しき天女の君に茫然としていたが、我に返ってアブダビドゥル君にあの人もお姉さんなのかと聞いた。すると彼は首を振った。

「ファーザーズワイフだよ。」

 え?ファーザーズワイフって、お父さんの奥さんでしょ。てことは、お母さんじゃないの。あ、でもアブダビドゥル君のお母さんはさっきのベージュのベールを着た女性よね。あれ、どうなってるの?ちょっと思考が止まったが、すぐにここがイスラム世界だということに気づいた。イスラム教徒の男は4人まで奥さんがいてもいいんだったっけ。こういう事実、頭ではわかっていても実際目にすると非常に面食らうのであった。

 ところでアブダビドゥル君はこの美しいファーザーズワイフのことを普段何と呼んでいるのだろう。名前で呼ぶのか、「お姉さん」と言うのか、はたまた「お母さん2号」とでも呼ぶのか。また、アブダビドゥル君のお母さんは彼女のことを何と呼ぶんだろう。反対に彼女はアブダビドゥル君のお母さんを何と呼ぶのかな。浮かんできたこれらの疑問は、当の美しいファーザーズワイフによってかき消された。彼女は抱いていた赤ちゃんを突然私に抱かせた。ファーザーズワイフは嬉しそうに

「アイーシャ!アイーシャ!」

と、指を鳴らしながら、私に抱かれた赤ん坊に呼びかけた。赤ちゃんはアイーシャという名らしい。

「この子、2ヶ月前に生まれたんだよ。」

 アブダビドゥル君が説明してくれた。ファーザーズワイフだけでなく他の子ども達も私を取り囲み、アイーシャが笑うように賑やかにあやした。赤ちゃんの母親はいつの間にかカメラを手にしていて、私に抱かれたアイーシャをパシャパシャ撮った。彼女は嬉しそうに赤ちゃんに話しかけているが、きっと「外国人のお客さんがあなたを抱っこしてるのよ~ 」とでも言っているのだろう。アイーシャと私はすっかりモデルになって、いろいろなアングルでカメラに収まった。

 撮影会が終わり、再びソファーに腰掛けるよう促される。アブダビドゥル君のお姉さんが奥からお茶を運んできてくれた。お茶はやっぱり紅茶だった。真夏の室内で熱い紅茶を飲むと、額から汗がどっと噴き出しダラダラ滴り落ちる。子ども達は私の反応を敏感に察知し、扇風機のスイッチを“強”に変えた。が、その数分後ギルギット名物の停電が起こった。扇風機はむなしく止まり、私は再び顔じゅう汗だらけとなった。すると子ども達が今度は扇子を持ってきてパタパタあおいでくれた。大勢から扇子であおがれる中、私は紅茶を飲み干した。扇子であおがれながらお茶というのはちょっとした女王様気分だが、女王様はこんな汗だくになってお茶なんか飲まないわなぁ。実際は女王様どころか、扇子であおいでもらって、たった一人でお茶を飲むなんて行為、「余は窮屈ぞよ」なのであった。

 アブダビドゥル君のお宅訪問は30~40分ほどで終わった。汗まみれ女王役から早く逃げたかったというのもあるが、子ども達に扇子であおがせ続けるのが心苦しかったのでおいとますることにしたのだ。帰り際、アブダビドゥル君はお願いがあると言った。

「小さいボール、欲しいんだ。ほら、中国では二つ小さいボールを手のひらに載せてクルクル回して遊んでるでしょ。よかったらあれ、送ってもらえませんか。」

ああ、健康球のことね。健康球とはよく中国のおじいさんがボケ防止に手のひらで転がしている二つの鉄球である。転がすとカランコロン音がするのもある。うん、わかった、北京に帰ったら送ってあげよう。そして私は北京に戻った後、本当にアブダビドゥル君宛に健康球を送ったのだった。

 そしてその約一ヶ月後、アブダビドゥル君から手紙が届いた。封筒の中には手紙の他に20ルピー札が2枚入っていた。え?なんでお金が?手紙には英語で

“健康球、確かに受け取りました。どうもありがとうございました。お礼にお金を入れておきます。これでゲームでも買って遊んでください。”

と書いてあった。読み終わって一人で大笑い!なんだよー、アブダビドゥル君!こんなお礼なんて別に要らないのに。それにしてもねぇ、ゲームを買って遊んでって言うけど、私ってそんなに子どもに見られてたのかしらん。


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テーマ:エッセイ - ジャンル:小説・文学


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