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中国放浪回顧録
中国放浪回顧録 その11

【えせ添乗員日記 蘭州編①】 

 中国でどこがよかったですかという質問をよく受けるが、たくさんありすぎるから答えるのは非常に難しい。が、好きな場所というと案外簡単に答が出てくる。この好きな場所ということについては誰もきいてはくれぬが、勝手に答えちゃうとそれは蘭州の白塔山公園の中にある喫茶室であ~る。お茶券を買うと魔法瓶一本渡され、お茶の葉、氷砂糖、桂園の実が入った蓋碗(茶碗蒸しのような器の茶碗)が出てくる。魔法瓶のお湯を自分で好きなだけ注ぎ、2分ほど待ってからゆったりとお茶を楽しむ。山の上の喫茶室の窓からは蘭州の町を見下ろせるだけではなく、町の中央を流れる黄河が拝め、鳥の行き交う様も観察できる。一杯目のお茶を飲み干し二杯目のお湯を注ぐと、今度は氷砂糖がほどよく溶けて適度な甘さになっている。マウンテンパークにおけるイカしたティータイム。こんなくつろいだ豊かな気分になれるのは私の中では十分贅沢である。あ~、なんて満ち足りた午後なんでしょう。もうすっかり自己陶酔の世界。

 ところが、このせっかくのいい気分をうち破るかのようなカタコトの日本語が聞こえた。

 「はい、こちです。こちです。皆さん、早く来てくたさい。」

 中国人の若い女性添乗員の声だった。むむむ、日本人のツアー客を率いてこちらにやってくる様子。静かだった白塔山は添乗員嬢のキンキン声に導かれて、どやどや押し寄せて来る団体客によって占拠されるのだ。ったく、ムードぶち壊しである。しかし、喫茶室の前に現れたのはガイドの姉ちゃん一人。日本人らしき団体はいない模様。ん?どうなってんの?

 「皆さん、こちですよ。はいー、早くねー。」

 ガイド嬢が手招きする先を見ると、まだ山道の階段の下の方から日本人のじいさんばあさんがぜえぜえ言いながら上ってきているところであった。若く元気なガイドの歩く速度には追いつかないのは当然で、老人たちは汗を垂らし、息を弾ませ、よたよた歩いている。

 「あぁ、くたびれた、くたびれた。」
 「まるで山登りだな。」

 やっとガイド嬢に追いついた日本人客たちは地面にはいつくばるようにしてへたっている。ようやくここまで上ってきたばかりだというのに、元気な添乗員は

 「はいー、ここでちょと、買い物します。」

とせかすのであった。ぬぬぬ、いったいこのツアー、どうなるんだろと、よせばいいのにお節介心がむくむくと頭をもたげ、つい老年ツーリストに話しかけてしまった。大勢いるのかと思ったらそうではなく、聞けば男3人女3人とこじんまりまとまったツアーで、長野県から来たという。ガイド嬢はというと若干20歳、長春の大学で日本語を学び、2ヶ月前からここ蘭州のCITS(中国国際旅行社)で働いており、今回でガイド経験2回目という新米もいいところの姉ちゃんであった。

 「はいー、早く歩いてくたさい。」

彼女は自分の体力と客の体力の差などまったく考えておらず、鬼のように老人たちをせかす。まあまあ、もう少しゆっくり・・・・と、なんで私が中に入ってなだめなあかんの。

 小休止が済んでから一行は再び歩き出した。心配なので私も思わず彼らにくっついていってしまう。白塔山公園の険しい道をガイド嬢を先頭に進む。彼女は足の運びも速くサッサッと軽やかだ。が、一方の老年ツーリストはちょっと立ち止まって景色を眺めてみたり、

 「ガイドさんや、この山は何メートルぐらいあるのかしら。」

と問うてみたりする。しかしガイド嬢は、

 「この山ですか。・・・知りません。」

 と堂々と言い放つ。おいおい、ちょっとは勉強しておけばどうなんや。ますますこの一行が心配になる。

 やがて我々は公園内の売店の前に来た。

 「さあ皆様、ここで買い物しますー。」

 ガイド嬢は手をたたき、元気な声で日本人客を店に招き入れようとした。が、老人たちは

 「今買ってもねぇ、荷物になるだけだし。」
 「買い物なら帰る直前に上海でまとめ買いするよ。」

とぶつぶつ。聞けば彼らの旅のルートは、上海→敦煌→ウルムチ→トルファン→蘭州→上海という典型的なシルクロードコースで、エキゾチックムード漂うウルムチ&トルファンと敦煌の莫高窟見物に重点を置いたコースであり、いわば蘭州はおまけ、もっと言ってしまうと通過点にすぎない場所なのだった。従ってここでしこたま買い物する必要も意義もないのである。しかしガイドの姉ちゃんは、この店で買い物するのはもう百年も前から決まっているような口ぶりで、

 「はいー、急いでー、買ってくたさいねー。」

と強固な姿勢を崩さない。姉ちゃんの買わさいでかという執念に負けて、ひとりのおばあさんがそれじゃあキーホルダーを買いましょうかと財布からFEC(兌換券)を出した。すかさずガイド嬢、さっとそれを取り上げ、自分の財布に詰め込むと代わりに人民元を取りい出して店員に渡す、という早ワザをやってのけた。ははーん、外貨はCITSがきっちり獲得しようって腹やな。更にガイド嬢は叫ぶ。

 「はいー、皆様もっと買い物しますー。」

 どうやらCITSはこの店からコミッションをなんぼかもらっている様子。日本人ツーリストはもう買い物はたくさんだとボソボソ話している。はっきりNOと言えない日本人してしまっているご一行様に代わり、私はつい茶々入れしてしまう。

 「皆さん買いたくないって言ってるんだからしょうがないでしょう。」
 「そうですか。はいー、わかりました。」

 ガイド嬢はあっさり引き下がった。なんや案外素直じゃないかと思いきや、

 「そうですねー。明日は一日蘭州の町を見物します。そして買い物しますねー。」

 なんと彼女はにこやかに計画を明日へと移しただけだった。なんだってェ!と驚く長野のお年寄りの皆様。

 「あら、明日は炳霊寺へ行くんじゃないの?」
 「買い物はもういいよ。買う物ないよ。」

 日本人客のブーイングにもめげず、ガイド嬢はきっぱりと一言。

 「私たちは炳霊寺へ行きません。」

 えーっ!そんなー、そんなー!と老人たちの間でどよめきが起こった。彼らにとって通過点でしかない蘭州での唯一の楽しみは炳霊寺だったのである。

 「今、川に水がありません。だから船できません。炳霊寺へ行きません。」

 姉ちゃんは繰り返した。炳霊寺は蘭州から西へ70㎞ほど行ったところにある、崖っぷちに仏像の彫刻が施されているダイナミックな寺院である。私もこのワイルドな仏像の姿を拝みたくて蘭州飯店のインフォメーションコーナーへ問い合わせてみたが、強引ガイド嬢が言うように寺へは船でしか行けず、今は川の水が少なくなっているため船が運航できないという説明であった。中国での旅は人によってキャッチするインフォメーションが異なるので、私だけが間違った情報をつかんではいやしないかと疑ってみたものの、香港人ツーリストも同じ理由で炳霊寺行きを断念したということだったので、やはり本当に行けないようだった。
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テーマ:エッセイ - ジャンル:小説・文学


この記事に対するコメント
私の妹も先月上海に社員旅行で来たのですが、ヒドイ!!ちゃんとした旅行会社なのに、現地スタッフにバトンタッチされたとたん、そんな感じ!!私、上海好きです。だからムカムカするし、悲しくなります。
【2006/10/25 00:59】 URL | ミリ #- [ 編集]

ミリさん、コメントいただきありがとうございます。

この話はもう10年以上の前の話で、最近では中国もずいぶん変わり、現代的になってきたのかと思っていたのですが、今でもこんな感じですか!?

中国の添乗員さんには、自分たちの希望をはっきり言った方がいいのかもしれませんねえ。

今後も旅行記書いていきますので、是非お読みくださいね。
【2006/10/25 15:39】 URL | ももママ #- [ 編集]


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