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中国放浪回顧録
中国放浪回顧録 その9

【不良少年との遭遇 福建編】

 福建省の省都、福州の駅前にバスターミナルがある。列車を降りた私はもう少し南にある泉州という町へ行こうと、その足で長距離バスに乗った。真ん中よりちょっと後ろのほうの窓側の席に座り、出発を待つ。まだ乗客はまばらな状態だ。座席が埋まったらきっと出発するだろう。腕時計を見る。夕方5時過ぎ。泉州に着くのは9時をまわるだろうなぁ。うまく宿が見つかるかしら、なーんて気をもんでいると、隣の席に誰かが座った。反射的にその人の顔を見る。おっ!!思わず身構えてしまった。クリクリパーマの髪を肩まで伸ばし、ちょびヒゲをはやした20歳前後の男で、洗いざらしのジーパンにクリーム色のヤッケをはおっている。色黒、やせ型、中背、頬はこけており、ポケットからタバコを一本つまみ出した指も骨に皮が絡まったように細く、爪が伸びている。彼は周りの人のことなどお構いなしにタバコを吸い始め、だらしなく背もたれに寄りかかった。ムムム、なんだなんだこいつは。格好やお行儀の悪さからして待業青年(未就職の若者)で、しかもチンピラではないだろうか。勝手に想像をめぐらし、ちらちら男を盗み見る。ったく、妙なヤツの隣になっちゃったもんだ。更に憂鬱なのは、チンピラはこの隣のヤツだけではなく、私の後ろの席にも同類が二人いた。3人は仲間だと見え、下品な大きな声で会話している。リーダー格のヤツは私の斜め後ろに座っており、やたらとわめいては他の二人に命令している。(福建語だったからよくわからないけど) 

 今さら席をかわるなんてわざとらしいし、かといってチンピラグループとはかかわりあいになりたくないし。私は彼らと目を合わさぬよう顔を背け、窓の外を眺めた。あーん、早く泉州に着いておくれぇ。

 やがてバスは出発し、夕暮れの福州の町を走り出した。私はずっと窓に貼り付くようにして外の景色を見ていたが、しばらくしてから隣のチンピラが私の腕を軽くたたいたので思わず振り返った。

 「これ・・・・・」

 彼はそっとみかんを差し出した。旅先で物をもらうと断りきれない私は、つい遠慮なく受け取ってしまった。どうも、と短くお礼を言い、また窓のほうを見つめた。

 「あの・・・・君はどこへいくの?」

 チンピラはおずおずと私の様子を窺うようにきいた。質問を無視するのもナンだし、泉州、と答え、後は黙ってまた窓のほうへ顔を向ける。

 「君、一人なの?」
 「そう。」

 なーんだ。みかんをきっかけに私としゃべりたかったのね。だけど、さっき後ろの仲間と話してたような乱暴なしゃべり方ではなく、静かな口調だった。チンピラはなおも話しかけてくる。

 「福州の人?」
 「違う。」
 「じゃ、どこの人?」
 「日本。」
 「君、華僑か?」
 「いいえ、日本人。」
 「そう・・・・・」

 チンピラは突然黙ってしまった。びっくりしちゃったんだろうか。ヤツの顔をのぞき込む。彼は私から視線をはずすと、下を向いて落ち着きなく目をしばたかせた。隣に座っている女の子と気軽に話をしようと思ったのに、外国の女だったもんだからいったい何を話したもんかと困惑している、そんな風だった。

 「あなたはどこへ行くの?」

 今度は私がきいてみた。

 「石獅だ。」

 終点の町の名を答えた。

 「遊びに行くの?それとも仕事?」
 「それが・・・・・俺もよくわからないんだ。石獅で何か商売するかもしれないし。後ろの二人に任せてあるから・・・・・」

 まあ、やっぱりいい加減なやつらだったんだ。

 「あの・・・・・日本に行くにはいくらぐらいかかるのかな。」

 チンピラは唐突にきいた。今まで出会った中国人は数々あれど、会って間もなくこんな事をきく人は誰もいなかった。今度は私が驚く番だった。

 「日本へ行きたいの?」
 「うん。」
 「船で行くか飛行機で行くかで費用は違うの。それに行くったってね、簡単には行けないのよ。パスポートとかビザとかいろいろな手続きがいるし。」
 「ふう・・・・・ん。」

 チンピラはわかったようなわからないような顔で私を見た。折しもベトナム難民を装った中国人が、福建省からボートピープルとして日本へやって来るという事件が多発していた頃だったから、チンピラたちの間でも日本行きについては話題になっていたのかもしれない。さすが福建人ねえと呆れてしまう。

 日が沈んでビデオが上映された。このバスには運転席のすぐ後ろの上方部にテレビが備え付けられてあったのだ。1時間もののドラマが次々と放映されるのだが、どれもこれもB級C級ものばかり。やたら人を殺しまくるギャングものやら、中国でよくありがちな勧善懲悪のカンフードラマ、それにエロチックなものもあった。ポルノ禁止の中国、しかも公共のバスの中ってことで、さすがに女性のヌードはないにしても、イヤらしいシーンは随所に出てきた。横のチンピラは官能的な場面になると目を丸くして食い入るように見、またドンパチシーンになると自分も『ドキューンドキューン』と銃声の音を発して大フィーバー。まったく単純なこった。

 夕飯タイムとなり、バスはとある町に停車して30分ほど休憩した。私は食欲がなかったのでバスから降り、そのあたりをぶらぶらしていた。再びバスに乗り込んだ時、隣のチンピラが、

 「さっき、君は何も食べなかったね。」

と言った。おなかがすいていなかったからだと答えたのに、彼は自分のかばんからカステラを取り出して私の膝の上に置いた。なんぼ厚かましい私でも、この時ばかりは固く断った。が、チンピラはがんとしてカステラを引っ込めず、とうとう無理やり私の手に持たせた。

 「あなたの分はあるの?」
 「あるよ。だから君はそれを食べなよ。」

 結構優しいヤツじゃないの。好意を無にしちゃ悪いから、一口、二口とカステラをかじった。チンピラは私の食べる様子を見て、へへっと笑った。

 甫田という町を通った時、パレードとすれ違った。古代の衣装をまとった人たちが大きな竜と一緒に、赤、青、黄色などの美しい灯籠を灯しながら、ドラや太鼓のにぎにぎしい伴奏付きで練り歩いていく。この日は元宵節の一日前だったのでこういうアトラクションがあったのだろう。いかにもお祭といった華やいだ雰囲気に、乗客たちは一斉に窓の外を見やった。私も窓を開けて身を乗り出した。

 「おい、どうだ。きれいか?」

 チンピラの兄貴分がへたっぴいな北京語で私にきいた。

 「日本にはこんなのないだろ。」
 「ほら、見て。あの人の格好。」

 チンピラたちは口々に叫んで私を同調させる。元宵節を祝うパレードは退屈していた乗客たちをたいそう喜ばせた。行進していく人たちが、夜の闇にぽっかり浮かんで幻想的なムードをかもしだし、そこだけ別世界のように映る。やがてそれも見えなくなると、夜はいっそう更けていった。

 10時半頃、バスはやっと泉州に着いた。横のチンピラにじゃあねとお別れを言って、車掌さんに降りますコールをする。バスから降りてくる客を待ちかまえていた力車にすぐ飛び乗り、まさに行こうとする私に向かって、ヤツが窓から顔を出し何か言おうとしている。さようならって言うのかと思ったら、 

 「日本っていい国か!?」

と叫ぶではないの。本当に日本へ行きたいのかしら。

 「いい国よ。」

 叫び返して手を振ると、彼もにっこり笑って両手を振った。おかしなヤツ。チンピラと決めつけちゃって悪かったかな。でも、9分9厘そういうヤツだった。これからどんなヤバイ事をするのか、またはまっとうな道を進むのか、はたまた日本へ来るのかは知らないけど、悪い人ではなかったな。

 それにしても、親切にしてもらったのに、何もお返しができなくてごめんなさい。彼の食料をぶんどってのうのうとしていた私のほうがよっぽどチンピラだったかもしれない。ヤツの小さな親切は元宵節のパレードよりもくっきりと心に残ったのであった。

(1990年2月)
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テーマ:エッセイ - ジャンル:小説・文学


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福建語福建語(ふっけんご)は、中国語の方言の一つ。広義には中華人民共和国|中国の福建省、広東省東部及び西南部、海南省、台湾省|台湾、浙江省南部、シンガポール、マレーシア及び各国の華僑・華人の一部の間で使用される言語をさす。別名を?語ともいう。狭義には厦門な 世界の言語【2007/02/24 23:07】