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新彊野宴(シンチャンバンケット)
新彊野宴(シンチャンバンケット)

 【僕の進むべき道】 その1

 夕方、島本君と三谷博士にお別れを言った。明日カシュガルに戻ることにしたのだ。ホリデーインホテルにも寄って駒田先生に挨拶に行った。が、先生は外出中と見えて部屋にはいなかった。お世話になりましたと短い手紙を書き、フロントに置いてきた。
 
 翌日予定より1時間10分遅れでカシュガル行きのバスが出発した。後方の窓側の座席に身を縮めて座る。流れる景色を見ながら、僕はこの1週間余りの出来事を思い返していた。池上君、イギリス人のトーマス、ヒサコさん、柳原さん、佐伯さん、根岸君、駒田先生、島本君、三谷博士・・・・・それぞれの顔が浮かんでは消えた。それはバスに乗っている3日間ずっと続いた。バスの中から見える景色がどんなに変わっても、目の前に現れるのは出会った人の顔だった。旅は景色を見ることではなく、人に会うためにするものなのかもしれないとふと感じた。

 3日目の午後、バスはカシュガルに着いた。また常宿のチニバーに戻ると、受付の女の子が戻ってきたのねと苦笑いした。懐かしいドミトリーにまたチェックインだ。部屋に入ると旅行者の顔ぶれはがらりと変わっていた。僕は一番隅っこのベッドに腰をかけ、リュックを下ろしてフッと息をついた。またしばらくこの町で沈没するとしよう。パキスタン人が多いことや東南の噂などもあり悪評高いチニバーだが、泊まり慣れれば居心地がいい。ここでまたリフレッシュして次の町を目指すとしようか。ベッドに寝転がろうと靴を脱いだ時だった。

「あれっ、舞い戻ってきたか!」

 コージさんの声がした。思わず声の方を振り返った。相変わらず赤いバンダナをおでこに巻いていた。

「よかったよ、最後に戸田君に会えて。」

 コージさんは嬉しそうに笑った。
「最後って?」
「うん、俺、明日の午後広州に移動するんだ。さっきチケット取ってきたところなんだ。」「そうだったんですか。」

 コージさんともお別れか。

「うん、だからよかったよ。シルクロード最後の夜に戸田君と飲み明かせるな。」

 折角再会できたコージさんと明日でお別れかと思うと、急に寂しくなってきた。

「広州からすぐ香港に出て、安チケット手に入れたら帰るよ、日本に。」

 そうか、池上君に続きコージさんも帰国してしまうんだ。

「コージさんはまだまだこの辺をうろうろするのかと思ってましたよ。」
「そうしたい気持ちは山々なんだけど、うろついてばかりもいられなくなってね。ま、金もなくなってきたからな。金の切れ目が旅の切れ目さ。」

 コージさんはハハハと笑った。

「疲れてるんだろ。どっからのお戻り?」
「ウルムチです。」
「じゃ、ゆっくり休めよ。晩飯時にまた誘いに来るから。」

 そう言うとコージさんはまた部屋を出ていった。僕はまず溜まった洗濯物をゴシゴシやっつけてからベッドに横たわり、そのまま眠った。

 夜7時過ぎに目が覚めた。夜7時と言ってもカシュガルでは真昼のように明るい。

「おはよう、お寝坊さん。」

 僕が起きたのに気づき、コージさんが声をかけた。

「カシュガル最後の晩餐にお付き合いくださいませ。」

 コージさんは執事のようにおじぎをしておどける。

「あ、はい。僕だけでいいんですか。」
「うん、戸田君と二人っきりの方がいいな。お、なんか恋人同士みたいな言い方になっちゃったな、ハハハハハ。」

 コージさんと僕は部屋を出、街を歩いた。

「少し歩くけど中華料理メインの店に行こうか。」

 コージさんはスニーカーをトントンと履き直した。

「ええ、最後だから僕がご馳走しましょう。」
「いや、逆だな。戸田君にご馳走しなきゃなあ。」

 たわいのない話をしながら20分ほど歩き、目指すレストランに着いた。まだ夕飯には早い時刻だから客は少ない。僕らは屋外の二人がけのテーブルにつき、メニューの中からお互いの好みのものを軽く注文した。

「コージさんはこの旅、全部でどれくらいの期間だったんですか。」
「そうだなあ、1年と8ヶ月余りかなぁ。」
「結構行きましたね。」
「うーん、過ぎてしまえばあっという間だったかな。」
「旅の終わりはそう感じるんでしょうね。」
「戸田君は今で何ヶ月くらい?」
「2月半ばからですから半年経ったところです。」
「じゃあ、あと半年くらいあるな。頑張れよ。」
「頑張れるかどうかわかりませんけど・・・」
「それもそうだな。」

 僕らは互いに笑った。

「ところでコージさんは帰国したらどういうふうに・・・」
「うん、小さい会社でもやろうかと思って。実はシルクロードのものを売ろうかと思って、ここにいる間買い付けやってたんだ。」
「へえ!そうだったんですか。それで新彊に来たんですね。」
「いや、そうじゃないんだ。新彊に来てから貿易会社やることを思いついたんだ。うまくいくかどうかわからんけどね。とりあえず発進しようと思って。荷物も全部送ったよ。」
「すごいなあ、コージさん。そんなこと考えてたなんて。」

 僕は興奮した。

「じゃ、帰ったら忙しいですね、会社興すのに。だけど楽しいでしょうね、やりがいあるだろうなぁ。」
「迷惑がられるかもしれないけどね、周りに。」
「そんな。励ましてもらえるでしょう。」
「それならいいんだけど、アホなことやってるなーって妻に言われるって予想はしてるよ。」

 えっと思った。今、妻という言葉が聞こえたが。

「妻って・・・・」
「うん、俺、結婚してるんだ。」


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