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新彊野宴(シンチャンバンケット)
新彊野宴(シンチャンバンケット)

 【語学の天才】 その3

 島本君の歌声はきれいだ。人は見かけによらぬものと言うが、本当にそうだ。彼がこんなに歌が上手い人だったとは。驚きでいっぱいになりながらも、島本君の歌声に聴き入った。ドイツ語の発音も滑らかで、巻き舌の音も強すぎず聞き心地のいい軽やかさだ。リズムもよく、メロディーも滑らかで歌いこなした巧さが感じられた。横目でチラリとインゲを見ると、彼女も島本君の歌にうっとりと聴き惚れている。顎の下で両手の指を互いに絡ませ、半分目を閉じ、口元を緩ませ微笑んでいる。島本君が歌い終えると、インゲも僕も思いきり拍手した。

「すっごいね!こんなに歌が上手いとは知らなかったよ。びっくりした!」

 僕は率直に言った。

「いやあ、そんなに誉めないでください。」

 島本君は照れたが、インゲは

「ね、ね、上手いでしょ。留学生にしとくのもったいないでしょ。リュウはドイツ語もかなり出来るのよ。」

と、嬉しそうに島本君の肩をぴしゃぴしゃ叩いた。

「本当にすごいね!中国語に英語、ドイツ語、それにウイグル語もやろうってんだろ。語学の才能があるんだねぇ。」

 僕は心底感心した。

「他にも『野ばら』だって歌えるのよ。まるでウィーン少年合唱団出身みたいなの!」

 インゲは黒いスカートの裾をふわふわ揺らしながら言った。

「誉めてくれるのは有り難いんだけどさ、もしかしてそろそろ練習の時間じゃないの?」

 島本君は自分の腕時計を見ながらインゲに言った。

「あ!ほんと!いけない!こんな時間だわ。行かなきゃ。リュウ、また今度ローレライ歌ってね。ヒトシ、それじゃあごゆっくり!」

 インゲはスカートの裾をふわりと翻して立ち上がり、手を振って小走りに校舎のほうへ去っていった。

「彼女、二胡習ってるんですよ。もうすぐそのレッスンで。」

 島本君が説明してくれた。

「二胡って弦楽器の?」
「そうです、中国楽器のね。とりあえず、二胡習ってその後、ウイグル楽器にも挑戦するって言ってますけどね。」
「島本君といい、インゲといい、アクティブなんだね。」
「うーん、僕はアクティブっていうよりどっちかって言うと暗い方だと思うんですけど。ネアカよりネクラかな。」

 島本君はポリポリ頭を掻きつつ首をかしげた。いや、ネアカとかネクラの問題じゃなく、島本君の18歳とは思えぬ大人びた冷静さや落ち着きに出会った頃から驚いていたのだ。ひょっとして僕より年上なんじゃないか、もしかしたら30歳、いや50歳を越えているんじゃないかと思えるほど精神的に成熟している。しかもこの語学力だ。僕の周りに島本君のような人は見当たらない。こんな人とは初めて会った。

「ドイツ語は独学?」
「うーん、まあそうですかね。イギリスにいた頃、父の親友が同僚のドイツ人だったんです。だからちょくちょくうちに遊びに来てたんですよ。僕にとってみればそのドイツ人は仲良しのおじさんで、一緒にキャッチボールしたりサッカーしたり遊んでくれたんです。時々ドイツ語も教えてくれて、それでかな、ドイツ語が身近に思えたんでしょうね、子どもの時から。」
「なるほど。だけど話せるようになるにはそれだけでは不十分だろ。」

 もう一歩踏み込んで聞いてみたくて探りを入れる。

「まあ、きっかけは父の親友でしたけど、その後はドイツ語の読みが楽しいなって思えたんですよ。英語よりドイツ語のほうが読みが簡単ですからね。基本の発音を覚えればあとはラクに読めちゃいますんで。」
「けどドイツ語って単語が妙に長ったらしくない?それに男性名詞とか女性名詞とかあったりして、難解に思えるんだけど。」
「それはそうなんですけど、コツさえつかめれば大丈夫ですよ。それに主語を言わなくても“誰が”の部分がわかっちゃうんで、かえって便利な言葉なんですよ、ドイツ語は。」
「へーえ・・・すごいなあ。話を聞いてると楽しんで言葉を勉強している感じだね。」
「う・・・ん、そうですねぇ、ゲーム感覚っていう部分もありますけどね。」
「そっかぁ、やっぱりすごいな島本君は。尊敬しちゃうよ。」
「あー、そんな尊敬だなんて・・・もっとすごい人は大勢いますよ。」
「島本君以上の人にはお目にかかったことないけどな。」
「いや・・・あ・・・もう帰ってきてるかな。ん・・・もしもすごい人がいたら、会ってみたいですか。」
「うん、そりゃあ是非。」
「じゃあ、今からちょっと行ってみますか。そのすごい人の所へ。」

 島本君は立ち上がり、運動場の向こう側に見える建物を指さした。僕は島本君の背中にくっつくような形で東屋を出た。すごい人っていったい誰のことだろう。
 僕らは運動場を突っ切って、くすんだもえぎ色に塗られた建物に向かって歩いた。

「三谷さんっていうんですけどね。」

 突然島本君が切り出した。

「特別教授っていう身分でこの学校に滞在してる人なんですが、面白いおじさんなんです。三谷さんは嫌がるんですが、僕は博士って呼んでるんです。それくらいいろんな事を超越してるんで。」

 島本君は意味ありげに笑った。へぇ、他にも日本人がこの学校にいるのか。

「夏休みの間イーニン周辺に行ってくるって言ってましたけど、確かもう帰ってきてるんじゃないかな。もし三谷さんがいなかったらごめんなさい。」
「いや、別にいいよ。」

と言いながらも、内心どんな人なのかと期待が膨らんだ。


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