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稚拙な表現ではありますが、旅行記などを発表していきたいと思います。
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青春の思い出?若気の至り?
中国大陸をほっつき歩いた旅記録です。
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新彊野宴(シンチャンバンケット)
新彊野宴(シンチャンバンケット)

 【シンガポーリアン】 その8

 翌朝、細貝君と加藤君はホータンを去った。僕は招待所の玄関まで見送りに出た。

「カシュガルに行くんですよね。もしツインに泊まるなら、色満(スーマン)か其尼巴合(チニバー) が安いですよ。」

 カシュガルの宿情報なら多少は自信がある。しかし、彼らはまたも意味ありげに顔を見合わせた。そして細貝君が申し訳なさそうに謝った。

「実はここだけの話、今から僕らが行く所って、カシュガルじゃないんです。飛行機でウルムチに行くんですわ。ウソついてすみませんね。」
「えっ、うそ・・・」
「だって、ほら、ゲタ野郎どももウルムチに行くって言ってたでしょ。また一緒の所だねーって、盛り上がるのがイヤで・・・」
「けど、結局ピーター達と同じウルムチに行くってことは、また町で出会うかもですよ。」

 すると加藤君が

「でも、あいつらバスで行くって言っとったでしょ。バスやったらウルムチまで4日はかかる。あいつらがウルムチに着く頃には、僕ら北京に戻りますから。」

と、安心したように言った。

「なるほどね。じゃ、ここでようやく彼らと別れられるってわけですね。お二人とも気をつけて!」

 僕は手を振った。細貝君と加藤君も手を振って、

「戸田君もね。あの女、戸田君のこと気に入ってたみたいだから、気をつけて!」
「食いつかれないようにねー!」

なんていう、ありがたい言葉を残してくれた。バックパックを担いだ彼らの姿が徐々に遠ざかり、小さくなっていった。僕は部屋に戻って身の回りを片づけた。

 しばらくしてから、出かけていたピーターとヘンリーが帰ってきた。ピーター達は朝早くからバスステーションへ行っていた。明日のバスチケットを買うんだと張り切っていたのだが、戻ってきた二人の様子は何か変だった。よく見ると、ヘンリーが足を引きずっていたのだ。

「どうしたんだい、ヘンリー!」

 思わず叫んだ。

「バスステーションの階段で足をぐねっとやっちゃって。捻挫したみたいだ。」

 こんな時は温めたほうがいいんだっけ、冷やしたほうがいいんだっけ?ヘンリーは左の足首を押さえ、痛そうにちょっと顔を歪めた。

「どこか医者に行って手当てしてもらったほうがいいんじゃない?」

 僕は少しうろたえた。

「だけど、ホータンではそんないい病院なさそうだから、急いでウルムチに行くよ。念のために足首のレントゲンも撮ってもらったほうがいいだろうし。」

 ピーターが眉根を寄せて言った。

「そうか・・・そうだね。でも、バスでの移動はかなり辛いんじゃないの。」
「うん、僕もそう思ってね、バスはやめて飛行機で行くことにしたよ。で、さっき急いで航空公司に行って、ウルムチ行きのエアチケット買ったんだ。だからヒトシ、君ともこれでお別れだよ。」

 ピーターは茶目っ気たっぷりにウインクをした。そうか、ピーターとヘンリーも出て行くんだ。寂しくなってしまうな。彼らはバタバタと身支度をし、リュックを担いで出て行った。

「楽しかったよ、ヒトシ!」
「ありがとう、またいつか会おうね、ヒトシ!」

 ピーター、ヘンリー二人と握手し、招待所の玄関口まで見送りに出た。外にはすでにタクシーが来ていた。

「招待所の人に頼んで呼んでもらったんだ。じゃないと、フライトに間に合わないからね。」

と、ピーターはタクシーに乗り込み、続いてヘンリーも足をかばいながらゆっくりと乗り込んだ。僕らは手を振り合っていたが、すぐに凄いエンジン音をふかしタクシーが発車した。あっという間に彼らは和田招待所から姿を消した。

 待てよ。ピーター達も飛行機でウルムチに向かうってことは、細貝君達とまた同じ行程になる。もうしばらくするとピーターとヘンリーが細貝君達を追うように空港に到着するだろう。そうしたら4人はそれぞれどんな顔をするのだろうか。細貝君と加藤君の驚いた表情と、ピーター、ヘンリーが爽やかな笑顔で『やあ、また一緒になったね』と明るく言う様子が頭に浮かび、たまらなくおかしくなった。招待所の玄関口で僕は一人、腹を抱えてゲラゲラ笑った。笑いはなかなか止まらない。

「どうしたの、ヒトシ?何笑ってるの?」

 ふいにトレイシーの声がした。振り返って彼女を認めると同時に仰天した。トレイシーは男性と腕を組んで僕の前に立っていたのだ。しかもその男性は西洋人で、どこかで見たことのある顔だ。え・・・っと誰だったっけ?

「イエンス!」

 思い出した。ホータンに来る時同じバスに乗っていたデンマーク人のイエンスじゃないか!僕の驚いた顔を見てトレイシーはふふふと笑う。

「さっき、彼と市場で会ったの。もうすっかり気が合っちゃって。」

 イエンスも嬉しげに片手を挙げて挨拶した。ニタニタしている。

「イエンス、君、どこに行ってたの?」
「和田賓館に移ったのさ。今朝、この子を拾ってね、意気投合したってわけ。」
「じゃ、そういうことでご機嫌よう、ヒトシ。バ~イ!」

 トレイシーはとびっきりの笑顔を見せると、イエンスとともにどこかへ消えてしまった。あとに残されたのは僕一人ってわけか。

 それにしても、トレイシーとイエンスがくっつくとはね。細貝君と加藤君の心配も泡と消えたな。実は、僕自身もトレイシーに近寄られてまんざらでもなかったから、ちょっぴり残念な気がしないでもない。だが、一方ではホッとしたのも事実だ。そう思うと、またおかしくなって一人クスクス笑ってしまった。


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新彊野宴(シンチャンバンケット)
新彊野宴会(シンチャンバンケット)

 【シンガポーリアン】 その7

 僕らは和田(ホータン)招待所に戻ってきた。ピーターとヘンリー、僕が泊まっているドミトリー部屋に集合し、皆でスイカを食べている。細貝君は仏頂面で黙々とスイカを囓っている。トレイシーは僕のベッドに腰掛けて(しかも僕のすぐ隣にぴったりくっついて)、嬉しげにスイカにかぶりついている。

「悪いわねぇ、またスイカ買ってもらって。でも、これ、すっごくおいしいスイカよ。ジューシーで甘くて最高!ミスターホソガイはスイカ選ぶの、ホント上手いのねー!」

 彼女の喋りは相変わらず絶好調だ。

「いいえ、どういたしまして。」

 細貝君は憮然とした口調で答えた。

「だからトランプなんかやめときゃよかったのに。」

 横から加藤君が囁く。

「だってさ、負けたままでいるの、悔しいやん。」

 細貝君はチラッと加藤君を睨んだ。

「けど、結局負けたやろ。しかもボロ負け。」
「それは結果論や。」
「もうあいつらのことなんか相手にすんな。」
「わかってる!」

 弾丸のように交わされる二人のひそひそ話はまるで漫才だった。

「彼女の言うようにこのスイカ、ホントに美味いっすよ。新彊に来て初めてですよ、こんなおいしいの食べるの。」

 僕は二人の間に割って入った。

「ああ、悪かったね、戸田君にスイカ切ってもらって。」

 細貝君はやっと笑顔になった。そう、スイカをカットしたのは僕だ。スイカを切った時に自分のハンカチをダメにしてしまったと細貝君がぼやいていたのを聞いたもんだから、今回は僕がテーブルの上に新聞紙を敷いてスイカを割ったのだ。トレイシーにも手伝わせた。彼女は恐ろしく不器用で均等にカットできず、一切れ一切れの大きさにかなりばらつきがあった。スパッ、シャキッと切ることができないようだ。躊躇しながらこわごわ切るもんだから切り口がガタガタになった。その度トレイシーは「あーん、イヤだー!」とか、「キャー、また失敗!」とか言って大騒ぎをした。端で見ていたピーターとヘンリーがこれを見て、笑ったりヤジを飛ばしたりして大層賑やかなスイカ割りとなった。一方、細貝、加藤コンビはずっと苦笑しながらこの様子を見ていた。

「トランプには負けたけど、彼女にスイカを切らせることができたんだから、おあいこじゃないですか。」

 僕は細貝君を慰めた。
「そやね。だけどこの女、いちいち騒がしいね。こんな不器用でウルサイ女、嫁に行けんのかな。心配やね。」

 細貝君は意地悪そうにクククと笑った。

「何?何か言った?日本語で私のこと言ってるんでしょ。」

 我々の雰囲気を察してトレイシーが僕の脇腹をつついた。

「あんたが切ってくれたから余計スイカが美味いって言ったのさ。」

 細貝君は中国語でこうごまかした。

「でしょ、でしょ、そうでしょ。感謝してよ、ミスターホソガイ。」

 トレイシーはキャラキャラ笑う。細貝君と加藤君はチラッと舌を出して、お互い顔を見合わせた。

「何言ってんだよ、トレイシー。こんな不公平な切り方するなんて、こりゃあもう普通の範疇に入らないぜ。ここまで目測誤るなんて天才だね。」

 ヘンリーが感心しつつも茶化した。

「そうさ。それになんで僕に端っこの部分をくれるのかなー。」

 ピーターが文句を言った。

「あら、知らないの?スイカって端の方が甘いんでしょ。」
「バカ!スイカは真ん中のほうが甘いんだよ!常識だろ!」

 ピーターが声を張り上げる。

「えっ、そうだっけ?ねえ、そうなの、ヒトシ?」

 マジでトレイシーが聞いた。やれやれ、このお嬢さんは・・・・


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